『古今著聞集』巻第二十「文覚上人高尾の猿烏を捕りて鵜飼を模するを見る事」より

猿の烏飼

 文覚上人が京都の高尾に住んで、神護寺の復興を志していたころのことだ。
 ある日、清滝川の上流で、大猿が三匹、うち一匹は岩の上に仰向けになって動かず、ほかの二匹は離れたところに身を潜めているのを見た。

 不思議に思ってさらに見守っていると、カラスが一羽飛んできて、寝ている猿のかたわらに降り、やがて猿の足を嘴でつついた。
 猿は動かない。まるで死んでいるようだったから、カラスはしだいに遠慮なくつつき、猿の体にのぼって目をほじくろうとしたとき、猿はさっとカラスの足をつかんで起き上がった。
 このとき、ほかの二匹の猿も出てきて、長い葛のつるをカラスの足に結びつけた。カラスは飛んで逃げようとするが、それはかなわない。

 猿たちは川に降りて、カラスを水に投げ入れた。一匹はつるの先を握っている。ほかの二匹は川上から魚を追い立てる。
 人が鵜飼をするのを真似て、魚をとらせようとするのであろうか。カラスを鵜と同じに使おうとするのは知恵の足りないこととはいえ、なかなかの思いつきである。

 カラスは水に投げ入れられて死んでしまったので、猿たちは死骸を打ち捨てて山に帰っていった。
 不思議なことをまのあたりに見たと、上人は語ったという。
あやしい古典文学 No.174