川路聖謨『島根のすさみ』−佐渡奉行在勤日記より

十本足の蛸

天保十一年十月二日

 ほかの国にもいるのだろうが、この佐渡に、蛇ダコというものがいる。足が十本あり、蛇が変態したものだという。
 地役人古藤重之助が赤泊の御番所に在勤のときのこと、夕方、子供たちが海岸に集まって騒いでいるので、何だろうと思って行ってみると、波よけの柵のところで、通常の蛇より頭がふくれたのが、しきりに波に尾を打ちつけていた。
 やがて尾が裂けて十本の足になったところで、子供たちが打ち殺してしまった。
 この地では珍しくないことだけれど、確かに見たと、重之助は語っている。

 さらに、佐渡にはハチメという魚がいて、それはヒキガエルが変態したものらしい。
 最近、半分ヒキガエルで半分魚の状態のものを獲って、村廻りの役人に見せたそうだ。



同年十月六日

 夜食にハチメという魚を食べた。前に記したように、蛙が化けた魚である。
 味はイシモチに似ている。あっさりしすぎて味気ない。蛙の化け物と聞いているせいで、食欲をそそらないこと、はなはだしいものがある。
あやしい古典文学 No.178