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高古堂『新説百物語』巻之一「但州の僧あやしき人にあふ事」より |
膏をとられる |
但馬の国の何とかという寺に、道幸という四十歳くらいの僧がいた。 寺の背後の山は、昔から魔所として人の恐れる場所で、確かなことではないにしても、巨大な山伏に出逢っただの、高入道を見ただのという話があるので、その奥山に入る人はいなかった。 道幸は言うのだった。 「妖怪を見るのも魔に逢うのも、人によりけりだ。ためしに私が行ってみよう」 そしてある日、問題の山の奥まで行き、とある岩に腰かけて煙草を吸ったりしていたが、何事も起こらなかった。 「だから、化け物も人によるんだよ」 道幸はそうつぶやいて、証拠のために傍の木の皮を削って帰ろうとした。 そのとき、にわかに風が吹きわたり、天空は瞬時にかき曇った。辺りはいつのまにか闇に沈んで、おそろしい気配であったが、道幸は少しも騒がず、悠々と下山した。 ところが、帰り道も半ばというところで、どこからか嗄れた声が、 「このたびは許したとはいっても、結局、おまえの命はもうないのだ」 さしもの道幸もぞっとして、足早に寺へ帰ったのである。 その四五日後、道幸は夢を見た。 身長三センチほどの正装した貴人が輿に乗り、供回りも美々しく、枕元にやって来た。 「われは、この後ろの山に住むものだ。先日は思いがけず登山してくださったが、何のもてなしもできなかった。そのかわりと言ってはなんだが、今日からそのほうの命を、毎日まいにち縮めてさしあげる。それを知らせに来たのだ。明晩から下官どもがかわるがわる来ることになるが、まず今夜から命を縮めよう」 すると、これも三センチほどの下役らしい男が二人、小さい鍬と鋤を持って耳の中に入り、しばらくして何やら膏(あぶら)のようなものを指先ほど持ち出してきた。 それから毎夜膏をとられて、道幸はだんだん痩せ衰え、ついに二月ほどして死んでしまった。 |
あやしい古典文学 No.183 |
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