橘南谿『北窓瑣談』巻之四より

踏むと響く道

 武蔵の国の、上野(こうずけ)との国ざかいに近い街道上に、人が踏むとなんだかよく響く場所があった。
 周辺の人は前々から不思議に思っていたが、この寛政六年の春、村人が相談のうえ掘ってみたところ、金属か石のような堅く響く箇所に掘り当たった。

 一同色めきだち、大勢集まってそこを掘ると、その下は空洞で、一人がぽっかりあいた穴に転落した。
 ほかの者は驚いて跳びのいたが、穴の中からはるかに落ちた者の声がして、
「助けてくれぇ」
と叫んでいる。
 さては死んではいないぞと、縄を下ろして皆で引きあげた。
 中はどうなっていたのか尋ねると、
「なんともわからない。底に土はなくて、ただ金石みたいに堅かった。だだっ広かったようだが、真っ暗でとにかく恐ろしかったから、動くこともできなかった」
と言う。

 もっと掘ってみよう、ということになって、周囲を広く掘ったところ、なんと巨大な仏像が横になって、地下に埋まっていることがわかった。かの村人は仏像の腹の中に落ちたのである。その大きさは並大抵ではない。
 庄屋などが寄り合って、
「こんな物を掘り出しては、役所に届け出もしなければならず、村じゅう大騒動となる。埋め戻して何事もなかったことにするのが一番よい」
と、例の穴のところには厚い板を当て、元のとおりに埋めてしまったそうだ。
あやしい古典文学 No.184