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三坂春編『老媼茶話』巻之壱「文浄」より |
うなじに棲むもの |
中国の金州に水陸院という寺があって、そこに文浄という僧がいた。 夏のある日、雨が降り、雨だれが文浄のうなじにかかったが、その跡が瘡になって、何年たっても癒らない。それどころか、しだいに腫れて、大きな桃くらいの腫瘍になった。 ある年の五月のことだ。 雨降り、雷鳴轟くとともに、うなじの腫瘍に穴があき、ひどく痛みだした。 人に見てもらうと、穴の中に何かいるという。とぐろを巻いた竜の形で、それが不気味に蠢き、昼夜とも痛むこと甚だしい。 そのまま何日かして、また雨降り、雷鳴轟いた。ついに庭に落雷すると、黒雲が文浄の部屋に入ってきた。 すると、うなじの穴のものが脱け出て、その雲に乗って空に昇っていった。白竜の形で、長さ六メートルほどに見えた。 以来、文浄のうなじの痛みが消え、腫瘍は癒えて、痕跡もなくなった。 |
あやしい古典文学 No.188 |
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