佐藤成裕『中陵漫録』巻之五「奇病」より

髪の怪、毛の怪

 江戸某所に、おそろしく髪の長い女性がいた。身の丈をゆうに超え、一メートルばかり引きずっていた。毎月その一メートルほどを切る。しかし、たちまち伸びて元どおりになった。
 ただし、この人、今は髪を剃って尼さんになっている。

 昔、こんな女性もいた。
 髪を結っても、一晩のうちにばらばらに乱れてしまう。夜、様子を見ていると、本人が眠っている間に、髪はひとりでにほどけて揺れ動き、のたうってやまない。
 ある医者が、これを治療した。
 夜中まで待ち、髪が動揺しはじめたところで、根本から短刀で切断した。それをただちに熱湯に投ずると、瞬時に髪ことごとく血と化した。
 以後、彼女の髪の患いは癒えた。みな血の為すところだったのである。
 医学書では、髪を「血余」と言っている。髪を燃えない器に納めて火にかけると、みな中で血と化すのである。

 また、薩摩の桜島の農夫に、首筋に積年の瘤のある者がいた。
 土橋という医者がこの瘤を切除したところ、中に細い毛の塊があった。牛の体毛のような長さ三センチくらいの毛が、もつれあってぎっしりと詰まっていた。
あやしい古典文学 No.191