和田烏江『異説まちまち』巻之一より

真説、頼朝の死

 あるとき、源頼朝が、妻政子に尋ねた。
「諸大名のうちで、だれがいちばん美男だと思うかね」
 政子は応えた。
「そりゃもう、畠山重忠にまさる者はいないでしょうよ」

 頼朝は猜疑心のかたまりのような男であった。この一言で妻を深く疑い、夜ふけになるのを待って重忠に変装すると、政子の寝所に忍び込んだ。
 侵入してきた曲者を見つけて、政子は激怒し、長刀(なぎなた)で斬り倒して殺害した。

 こういう呆れた次第なので、頼朝の死因はひた隠しにされ、記録されていないのだと、かつて母が私に語った。
あやしい古典文学 No.196