『今昔物語集』巻第二十九「僧の昼寝のまらをみて呑み、婬を受けて死ぬる語」より

夢から醒めたら

 昔、たいそう高貴な僧に仕える若い僧がいた。
 その若い僧が主人のお供で三井寺に行ったとき、夏場のことであったが、眠くなって、広い僧坊の隅で長押(なげし)を枕に昼寝した。

 起こす人もなく、ぐっすりと眠るうちに見た夢で、美しい若い女が横に寝て、夢中で性交して射精した。
 その途端はっと目ざめると、傍らに一メートル半ほどの蛇がいる。蛇は死んで口を開いていた。恐ろしさに身震いしつつ、ふと自分の股間を見れば、陰茎が射精して濡れている。
『わあ、なんてこった。きれいな女とやっているつもりだったのに、じつはこの蛇が相手だったのか』
 そう思うと、もう気が狂うほど恐ろしい。
 蛇は開いた口から、精液を吐き出している。
『よく寝入った自分の陰茎が勃起していたので、蛇がやって来て呑もうとした。それを女とやっている夢に見たのだ。そのあげく射精したのを蛇が飲んで、死んでしまったのか』

 震えながらその場を去って、人目のない場所で陰茎をよくよく洗い、
『だれかに相談しよう』
と思ったけれども、
『こんなことを人に話したら、蛇とやった坊主だ、などと言いはやされてしまう』
と考え直して、秘密にしていた。
 しかし、思い出すたびに恐ろしくてならない。ついに堪えきれず、ごく親しい僧に話したところ、聞いた僧もひどく恐ろしがった。

 こんなことがあるから、人気のないところで昼寝をするのはよくない。また、『畜生は人の精液を受けると必ず死ぬ』というのは本当なのだ。
 かの僧の身には、その後べつに異状はなかったが、しばらくは恐怖と自己嫌悪で病みついたようになっていたという。
 このことは、当人から聞いた僧が話したのを、さらに語り伝えたのだという。
あやしい古典文学 No.197