根岸鎮衛『耳袋』巻の九「吐血をとめる奇法の事」より

吐血を止める法

 吐血が止まらないときには、子供の小便を飲むという方法がある。しかし、あいにく家に小児がいなかったら、どうするか。よその家の子のを貰ってきても、すでに冷めてぬるくなっているため、飲むと気分が悪くなる。
 そういうときには、自分の小便を飲んでもいいのだ。

 私の親友の山本某は、文化六年の春に吐血して、いろいろ薬を施しても効果がなかったが、ある医師がこの飲尿法を教えてくれたので試してみると、たちまち吐血が止まったそうだ。
「自分の小便も、飲み始めはしょっぱくて飲みにくい。半分ほども飲めばいくらかましになる。朝、膀胱に溜まりきった小便は濃厚で、いちだんと飲みにくいぞ」
などと山本が話したのを、ある官医に尋ねたところ、この法は医術に随分あるのだという。

 『不浄のものをわが口に入れること、死んでもすべきではない』と非難する者もいるが、ある人は『天命をつなぐための一術だ。薬なのだから、何の差支えがあるものか』と反論した。もっともなことだ。
あやしい古典文学 No.202