>西村白烏『煙霞綺談』巻之二より

浄元虫

 近江の国の志賀郡別保村に、蒲生家の浪人で南蛇井(なだい)源太左衛門という者がいた。後に剃髪して浄元と名乗った。
 この者は極悪人で、わが家に旅人を泊めては、ことごとく殺害して金品を奪っていた。

 慶長五年の関が原戦の際にも、多くの落人を泊め、みな殺害した。
 そのことについての咎めはなかったが、ふだんの悪事が露見したため、門前の柿の木に縛りつけて七日間さらした上、斬首された。
 村人は、浄元の死骸を木の下に埋めた。
 翌年、その木の根もとから、人の形をした虫が無数にわいて出た。まるで後ろ手に縛られているかのような格好で、木の枝に取りついていた。

 土地の者はこれを浄元虫と呼び、持ち歩いて他所の人にも見せたということだ。
あやしい古典文学 No.212