三坂春編『老媼茶話』巻之五「山姥の髢」より

山姥・山獺

 猪苗代白木城のあたりの百姓、庄右衛門という木こりが、磐梯山中で大岩の上の松の梢に、何か白くて長いものを見つけた。
 木こりだから、木登りは得意だ。登って取ってきて見るに、雪のように白い、長さ二メートル余の頭髪であった。
 毛の太さは馬の尻尾のようで、全体にとても作り物とは思えない。持ち帰って多くの人に見せたが、何というものかだれも知らず、『山姥の髢(かもじ)』と呼んで、今も伝わっている。

 山姥(やまんば)は南蛮の獣である。その形は老女のようで、腰のあたりに皮が垂れ下がって、それが短い腰巻をつけているように見える。
 時として男を捕らえて自分の岩穴に連れ込み、性交を強要する。従わない男は殺してしまう。その腕力は丈夫に匹敵するのである。
 好んで小児を盗む習性があるが、盗まれた者が大勢の人を集めて、
「山姥がうちの子をさらった!」
と大声でふれ歩いて辱めると、こっそり小児を連れてきて、その家の傍らに捨てて帰るという話だ。

 山中にはほかに、木客、彭侯、山夫、山女、狒々、野婆、カマイタチなどといった怪しい獣がいる。
 また、山獺(やまうそ)という獣がいる。これの肉は滋養強壮に効くが、なかなか手に入らない。
 猟師が山獺を獲るときは、美女を連れていく。その美女を大木のもとに立たせておくと、山獺は女の気配を感じて、一目散に走ってくる。
 間一髪、女は逃げる。
 山獺は大木に抱きつき、悶々ともだえる。その木はたちまち枯れてしまう。
 猟師はその隙に、山獺を鉄砲で撃ち殺すのだ。
あやしい古典文学 No.219