松浦静山『甲子夜話』巻之五十九より

死骸/蟲

 今年十一月十九日、某宅で赤穂の老侯に対面したとき、老侯が語った。

「増上寺本堂の床下は、ふだん人が入ることはない。年に一日、人を入れて掃除を行う。ところが、かねてわが屋敷に出入りする者によれば、三日前、今年の掃除のときに、床下から死骸が見つかったそうです。
 いつごろ、どのようにして入って死んだのかわからない。年月を経て、枯木のようになっていて、骨肉とも乾いて固まっているので、立てれば直立するし、横たえれば転がる。ほとんど干し魚のようだとも。
 男女いずれなのか、はっきりしないらしい。入定した僧かとも思われますが、だとしても狭苦しい堂の床下に入るのはおかしいと、あれこれ言い合っているとか」

 まさに近ごろの奇聞である。老侯はさらに、こんな話もした。

「わが知人の眉のうえに小さい瘤ができたが、後にそれが破れ、中から屁ひり虫のような虫が出てきました。怪しく思っていると、また出てきて、それが数日止まなかったのです」
 そこで取り持ちの坊主衆が、
「いや、ほかにも何人か、そんな病気の者がおりますよ」
と話しかけたとき、主人が出てきたので、談話はやみ、主客とも奥に入った。
 何という病気なのだろう。この世には不思議なことがあるものだ。
あやしい古典文学 No.222