『古今著聞集』巻第二十「渡邊の薬師堂にして大蛇釘付けられて六十余年生きたる事」より

釘づけ六十年

 摂津の国の渡辺に、むかし建立されたお堂がある。薬師堂といって、源翔(みなもとのかける)の先祖の氏寺である。

 かつて源番(みなもとのつごう)が馬の充(うまのじょう)の地位にあったとき、この堂を修理した。
 こけら葺きの屋根であったのが、年月を経て朽ち腐ってしまっていたので、葺きかえようと取り払ったところ、そこに大きな蛇がいた。
 どうしたわけか、太い釘に打ちつけられて、長年動くこともできずにいたのである。
 そのとき堂は、建立の年から数えて六十余年。その間釘に貫かれて生きていた命の長さは、驚嘆すべきことである。
 蛇がいた下の裏板は、油で磨きたてたようにつやがあって光っていた。どうしてなのか見当がつかない。

 これは、実際に翔が語った話である。
あやしい古典文学 No.224