佐藤成裕『中陵漫録』巻之十四「紅雪」より

紅い雪

 文化六年の冬、越後の高田の近辺一帯には、紅色の雪が降った。春になっても時々降ることがあった。
 この紅い雪は昔も降ったことがあると、土地の古老が言い伝えを語ったので、調べてみると、確かに「建武九年正月紅雪降る」と記録にあった。

 この異常な気象を聞く者は、大いに驚き、天変のごとく思って恐れるのだが、しかし原因を追究してみると、何も恐れるようなことではない。
 私は先年、出羽の国の吾妻山に登った。その山頂から二キロ四方はすべて赤土で、それが大いに崩れてあちこちに水が溜まり、沼池のようになっていた。水はみな赤土色であった。
 これらの沼池は、神田竜池の名で呼ばれるものが多い。時として竜がここに下りて水を汲み、百里の遠方にまで降らすことがある。その雨はみな淡い赤色である。
 もし空中で凍って雪になるときは、その雪もまた淡い赤色となる。

 紅い雪が降ったからといって、べつに怪しむことはない。もともと山上の赤土の中の水なのだから。
あやしい古典文学 No.230