橘南谿『西遊記』巻之三「山女」より

山おんな

 日向の国、飫肥(おび)領の山中で、近年、菟道弓(うじゆみ)によって怪しいものを獲った。
 女の形で、肌の色はことのほか白く、黒髪を長くのばして、裸である。人に似ているが、人ではない。
 猟師は大いに驚き、人に尋ねたところ、山神だという。後の祟りが恐ろしく、そのまま放置して逃げてしまった。
 その後、怪しい死骸は腐り果てたが、なんの祟りもなかったという。

 別の人がいうには、これは『山女』といって、深山には時おりいるものだそうだ。
 一般にその辺りでは、菟道弓というものを作って獣を獲る。
 獣の通る道をウジといい、その道を知って弓を仕掛けておく。菟道弓は、糸を踏むと弓が矢を放つ仕掛けなのである。狼、猪なども、この弓で多く獲るのだが、山女もまた、これに掛かったのである。

 まことに辺境の国には、いろいろな怪しいものがいることよ。
あやしい古典文学 No.234