只野真葛『むかしばなし』より

睾丸訴訟

 馬鹿な冗談も、言い募ればややこしくなる場合がある。

 あるへそ曲がりの爺ィが店先にあぐらをかいていたが、睾丸がもろに見えていたので、通りすがりの客が、商品の値を交渉するついでに、
「その金玉も売り物か」
とおどけて訊いた。
 すると爺ィは、
「そうでございます」
と応えた。
「いくらだ」
「三両でございます」
「三両出したら売るのだな」
「きっと売ります」
「そりゃ面白い」

 翌日、客が三両持ってきた。
「昨日の金玉を買いにきた」
 爺ィのほうは、死人の睾丸を切って用意していた。
「これではない」
と客が言うと、
「昨日のは看板だから売れませぬ」
「そんなことがあるか」
などと言い争って、大げんかになった。
 互いに引き下がらず、ついに訴訟沙汰になったそうだ。
あやしい古典文学 No.250