佐藤成裕『中陵漫録』巻之六「半裂 千貫虫」より

ハンザキ・千貫虫

 備中松山の城の前に大河がある。その川上には、山椒魚というものが棲息している。体長は六十センチにいたる。地元では「半裂(ハンザキ)」と呼ぶ。
 捕まえて生のまま酢漬けにして食べる。あっさりした味である。また、煮て食べる。肉はたいへん白い。
 頭は蝦蟇(がま)に似ている。全身が平たいところも似ていて、たいへん気味の悪いものである。
 土地の者は、これの子を捕って生簀に飼い、数年して六十センチくらいになったとき、半身を裂いて食べる。残りの半身には肉が生じて、また元どおりになる。
 これの餌には泥鰌(どじょう)を与える。一日に一匹だけ食べ、多食はしない。

 また、奥州の渓谷に生ずる体長六〜十センチの虫があるが、その形は、すなわち箱根にいる山椒の魚というものの小さいやつである。
 これを生きたまま飲むと癪(しゃく)の病根を切るという話で、値段が高騰して千貫に近いという。
 そのゆえに数が少なくなり、箱根のように大きなのがいないのである。
あやしい古典文学 No.254