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『曾呂利物語』巻之三「離魂と云ふ病ひの事」より

妻が二人
　いつごろのことであろうか、出羽の国の守護の何某の屋敷での出来事である。

　ある夜、妻が便所に行って、しばらくして戻り、部屋の戸を閉めて床に入った。ところが、またしばらくすると女の声がして、部屋に入ってきた。
　妻が二人になってしまった。
　何某は不思議に思い、二人を別々にして夜の明けるまで調べたが、どちらにも怪しいところがなく、ともにわが妻だとしか言いようがない。

　困り果てていたところに、ある者が、
「片方の女に不審の点があります」
と言ったので、そちらをさらに追及したうえ、とうとう首を刎ねてしまった。
　しかし、死骸はまぎれもなく人間のもので、妖怪などではなかったのである。
「しまった。さては、もう一人が化け物だったのだ」
と、そちらも斬り棄てると、これまた人間であった。

　ためしに死骸を数日放置しておいたけれども、何の変化も見られない。
　どういうことなのか分からないままだったが、ある人が言うには、これは「離魂病」という病気の症状なのだそうだ。
あやしい古典文学 No.256
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