山崎美成『世事百談』巻之三「鬼魘たるものの治療」より

気絶者の治療法

 臆病な人や婦人などが妖怪に出会って、恐怖のあまり気絶している場合、手や風呂敷のようなもので絶死者の口と鼻をふさぎ、息の出ないようにしておくのがよい。
 やがて病人が眼を開けたら、熱い小便を口いっぱいに注いでやる。しばらくすると正気に戻るであろう。

 また、絶死者の名を大声で呼んで正気づかせようとしてはならない。そうではなく、足のかかとに力いっぱい噛みつくのがよい。顔につばを吐きかけてやるのも有効だ。
 燈火のある場所で気絶したのであれば、そのまま燈火をともしておくこと。逆に暗がりで気絶していたら、燈火をともしてはいけないとのことだ。
 こうしたことも、あらかじめ心得ておくべきである。
あやしい古典文学 No.260