松浦静山『甲子夜話』巻之三十二より

対馬の河太郎

 対馬には河太郎がいる。防波堤の石垣の上に群れをなしている。亀が石に上って甲羅を干すのと同じような様子だ。
 河太郎の身長は六十センチメートルあまりで、人に似ている。老若があり、年寄って白髪なのもいる。髪の毛が頭に垂れ被さっているもの、髪が天を突くように生えているものなど、さまざまだ。
 人の姿を見ると、みな海に飛び込んしまう。

 河太郎は人に憑く。狐と同じである。対馬の住人のわざわいの種となっているという。
あやしい古典文学 No.268