大田南畝『一話一言』巻四十五「河童図説」より

水戸浦の河童

(東浜の漁師 権平次より、浦山金平宛 届出)

 享和元年六月一日、水戸浦にて河童を漁獲いたしました。
 河童の身長一メートルあまり、体重四十五キログラム。体格に比べ、ことのほか重いものでありました。

 当日、海にておびただしく赤子の泣き声がするので、漁師たちがあちらこちらと船を乗りまわすに、声は海の底から聞こえるようでした。
 網を下ろしたところ、さらにいろいろの声で鳴いております。そこで刺し網を引き回すと、鰯網の内に河童が十四五匹入っていて、たちまち躍り出て逃げようとしました。船頭たちは棒や櫂で打ち叩きましたが、ぬるぬるした体に滑って、なかなか手応えがありません。
 そのうち一匹が船の中に飛び込んだので、苫(とま)を押しかぶせて上から叩き、打ち殺しました。その時も赤子が泣くように鳴いておりました。河童の鳴き声は、赤子の泣き声と同じなのでございます。
 打ち殺される時に、河童は屁をこきました。まことに耐え難い臭気で、嗅いだ船頭たちは後日寝込んでしまいました。叩いた棒などにも青臭いにおいがつき、いまだに消えません。
 河童の尻の穴は三つありまして、体には骨格がないように見えました。屁の音はせず、スッスッとこいておりました。打ち叩くと首が胴の中に八割がた引っ込み、胸や肩が張り出してせむしのようになります。死んだら首は引っ込みません。

 当地で河童を獲ることは度々ございますが、このたびのように大きくて重いものを捕らえたことはなく、珍しいことゆえご報告申し上げます。
あやしい古典文学 No.269