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大田南畝『一話一言』補遺巻三「狐の玉火」より |
きつねの火玉 |
江戸、本所亀戸の名主の地所に住む大工某が、ある夏の宵に戸外で涼んでいると、どこからともなく一匹の狐があらわれた。 狐が何かを手で転がすと、ぱっと火が燃え出た。様子をよく見るに、その転がる火で地面を照らし、虫を拾って食っているらしい。 不思議に思ってそっと近づいていったが、狐は虫を拾うことに夢中で、大工の存在に気がつかない。何度も転がすうち、火が手元近くにやって来たので、大工はそれを素早くつかんだ。 狐は驚いて、そのまま逃げ失せた。 手にとって見ると、白い玉である。珍しく思って持ち帰り、秘蔵することにした。 夜の集まりなどで、人々が帰るときに草履のありかを捜すことがある。そんな時この玉を取り出して転がすと、例のごとく火が燃え出て明かりの用を足した。 何かと重宝して、三年ばかり玉を所持していたが、その間、狐が一匹、とかくに付きまとって昼夜離れず、大工はなんとなく痩せ衰えていった。周囲の者がそれを玉の祟りだと言うので、大工もやっと『仕方ない。玉を返そう』という気になった。 ある晩、物を捜すのに思いのほか遠くに玉を投げたところ、たちまち狐が躍り出て玉を奪い、走り去った。 その後、大工の身には何ごともないそうだ。 |
あやしい古典文学 No.272 |
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