『諸国百物語』巻之一「京東洞院かたわ車の事」より

東洞院かたわ車

 昔、京都の東洞院通りに、かたわ車という化け物がいて、毎夜、下(しも)より上(かみ)へとのぼったという。
 人はみなこれを恐れ、日が暮れて後は通りを往来しなかった。

 ところが、ある人の女房が、この化け物を見たいと思った。
 それで、夜、格子の隙間から覗いていると、夜半過ぎ、下の方から片輪車の音がしてきた。
 牽く牛もなく、人もいないのに、車の輪がひとつ回ってくる。その輪に、人の足の、股から引きちぎれたのが掛かっている。
 女房が驚き恐れたところに、車は人のようにものを言った。
「おい、そこの女。われを見るよりも、おまえの子を見るがよい」

 部屋に駆け戻ったところ、三つになるわが子は、肩から股まで引き裂かれていた。片股はどこへ持ち去られたのか、なくなっていた。
 いくら嘆き悲しんでも、もう取り返しのつかないことだった。
あやしい古典文学 No.287