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橘崑崙『北越奇談』巻之二「俗説十有七奇其十五」より |
蓑虫の火 |
どこの場所と限らず、細かい雨がしとしと降る夜に、蓑笠をまとって独り道を行くと、ふと蓑の毛に蛍火のごとく光るものがつくことがある。 これを払うと、たちまち蓑の毛いちめんに火が移って、笠の水滴から手足の濡れたところまで、ことごとく燐然として光る。したたる雨露もみな火となる。 心を静めてじっとしていると、やがて火は自然に消える。 このことは、蓑ばかりでなく傘(からかさ)や衣類でも同様である。また船中や湖で起こることもある。 狐狸のしわざだという説もあるが、そうではない。これは鬼火なのだ。 『老学庵筆記』という中国の書に、「田野の麦苗稲穂、雨夜、たちまち火の起こるを見る。これ古戦場の燐火なり」とあるのに同じである。 |
あやしい古典文学 No.296 |
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