『元禄世間咄風聞集』より

二人小僧

 さる二人の客人が、堀小四郎宅に年始に訪れ、座敷に通されたところ、そこには二人の小僧が控えていた。
「小僧、煙草の火を頼む」
と言ったが、彼らは知らぬ顔をしていた。そこでまた、
「おい、小僧、小僧」
と呼ぶと、振り向いた。
 その眼差しのもの凄さに、二人の客は、あっ! と言葉を失った。

 やがて主人の小四郎が出て来て、挨拶が交わされた。話の中で、
「こちらさまは随分と小僧好きになられたご様子……」
「なんですか、小僧好きだなんて。当屋敷に小僧は一人しか召し使っておりません」
「いやいや、先ほどここに小僧が二人もおりましたよ」
 すると小四郎は、こんなことを言った。
「さては、あの小僧を見たのですか。そいつらは折々私も出会いまして、二度ほど斬りつけてやったのですが、いっこうに手応えがありません。また組みついても掴み所がなく、埒があきません。そうするうち、私のほうも二人になったような気がすることさえ、しばしばあるのです」
あやしい古典文学 No.309