森田盛昌『咄随筆』下「人猫をうむ」より

よもぎ猫

 宝永のころの話。
 金沢の三社町に住まいする某大名の家来の下女が懐妊した。だれの子かと訊ねたところ、
「御嫡子弥兵衛様の御子でございます」
と言う。
 そこで弥兵衛を問いただしたが、全く身に覚えがないとのことだった。しかし下女は、
「誓って弥兵衛様の御子にまちがいありません」
と言い張った。

 下女の親は野町の住人だったので、ひとまずは親元に帰すことにした。
 すると、屋敷で飼っていたよもぎ猫が、どういうわけかいっしょに野町に行って棲みついた。
 やがて臨月にいたり安産したが、生まれたのは猫三匹であった。これはもう、よもぎ猫が弥兵衛に化けて下女に通じたにちがいなかった。

 主人は、生まれた猫を籠に入れて取り寄せ見物した。また、出入りの人々にも見せたので自分も見たと、これは桶屋弥兵衛が語ったことである。
あやしい古典文学 No.310