西田直養『筱舎漫筆』巻之七「猫狐あやしきわざ」より

猫・修行中

 高橋司が物語ったことである。

 天保七年七月十四日の夜のこと、便所に行って窓から外の荒畑を何気なく見ていると、猫が一匹、ゆっくり歩いて現れた。やがてそこへ、狐が一匹来た。
 しばらく猫と狐は並んでいたが、ふと狐が両前足を上げて乳のあたりとおぼしきところに折ると、背を少し伸ばし、後足だけでちょこちょこと歩いた。
 猫はその様子をまねて、狐の後をついて歩いた。

 十数メートルある畑を、二匹はまっすぐに歩いていった。端まで行くと、帰りは普通に四つ足でのそのそと戻ってきた。これを五六十度も繰り返しただろうか。
 月の明かりで垣根の影が、畑に糸のようにのびている。その筋をたどって歩くのだった。
 そのうち高橋が咳をしてしまったので、二匹は驚いて飛ぶように逃げ去った。

 まったくこれは、猫が狐に教えられて、立って歩く稽古をしていたのである。
 ほかにもいろいろな術を伝授されるのに違いない。
あやしい古典文学 No.315