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根岸鎮衛『耳袋』巻の十「老鼬の事」より |
熊谷の吸血獣 |
文化八年七月のことという。 熊谷在にて、屈強の男が路傍に倒れ死んでいた。また、旅人の風体の男一名も同じようにして死んでいた。 ともに懐中には金銀の入った財布や鼻紙袋などがそのままあり、衣類も奪われていない。よって盗賊の所業とは思われなかった。脇の下に傷があり、そこから血が滴っていたことから、獣のしわざであろうか、などと人々は語り合った。 ある時、その場所を土地の者が通りかかったところ、犬ほどの獣が不意に飛びかかり、噛みついて血を吸った。 血を吸われながらも取っ組んで大声を上げたので、近辺にいた者が集まってきて獣を打ち、たまらず逃げていくのを追いかけた。獣は崖の亀裂の間に逃げ込んだ。 松明をともしてそのあたりを調べると、亀裂の中に洞穴がひとつあるのが見つかった。そこで若者どもが大勢集まり、落葉枯葉を洞穴いっぱいに詰め込んで火をかけた。 やがて火の中をかき分けて飛び出してきた獣を、皆でめった打ちにして殺したが、それは犬ほどの大きさの鼬(いたち)だったそうだ。 |
あやしい古典文学 No.330 |
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