『宇治拾遺物語』巻第五「仮名暦あつらへたる事」より

我慢の限界

 ある屋敷に新米の若い侍女がいた。
 この侍女が人に紙をもらい、同じ屋敷に住み込んでいる若い僧に、年間の日々の吉凶や禁忌などを記した『仮名暦』を書いてくれるよう頼んだ。
 僧は「いいとも」と気軽に引き受けて書き始めた。
 初めのころはきちんと、「神事仏事によし」と書いたり、「坎日(かんにち)」「凶会日(くえにち)」と不吉な日を示したりしていたが、あとのほうになると「もの食わぬ日」とか「これこれがあったらよく食う日」などと、いい加減な思いつきを書くようになった。

 侍女は「変な暦だなあ」とは思ったものの、まさかそんなに出鱈目に書いたとは知らないから、「しかるべきわけがあるのだろう」と、書かれたままに従って日を送っていた。
 するとある日、暦に「大便するべからず」とあった。さすがに「えっ…」と思ったけれど、「いやいや、そんな日もあるんだ」と納得して、一日ウンコを我慢して過ごした。ところが翌日も、その次の日も「大便するべからず」とあった。さらにずっと連日「大便するべからず」が続いた。
 二三日のうちは我慢できても、そういつまでも堪えられるものではない。若い侍女は両手で尻を抱え、「どうしよう、どうしよう」と悶えていたが、とうとう気が遠くなって脱糞した。
あやしい古典文学 No.342