山本序周 編『絵本故事談』巻之四「子英」より

鯉に乗って去る

 舒卿に住む子英という者は漁を生業として、常に水に入って魚を獲っていた。
 あるとき真っ赤な鯉を得て、その色の美しさを愛し、池で飼うことにした。鯉は一年経つと体長三メートルを超えるまでに育ち、角と翼が生えた。
 不思議さのあまり子英が拝謝すると、鯉は言った。
「わたしはおまえを迎えに来たのだ。さあ、ともに天に昇ろう」
 たちまち激しい雨が降ってきた。豪雨の中、子英は鯉に乗って飛び去った。

 その後、子英は毎年帰ってきた。数日間を妻子と過ごすと、また鯉が迎えに来て飛び去った。それが七十年間繰り返された。
 やがて人々は、祠を建ててこれを祀った。
あやしい古典文学 No.353