津村淙庵『譚海』巻之五より

真説・狸の腹鼓

 「狸の腹鼓」ということは、慈鎮和尚の歌にも見える。昔からあることだ。だが、狸はなぜ腹鼓を打つのだろうか。人を惑わすためなのか、あるいは、ただ自分の楽しみで鼓を打っているのか。
 こんな議論をしていたところ、ある人が言った。

「いやいや、そのどちらでもありません。私は以前、箱根の最乗寺に泊まったときに、狸の鼓打ちというのをこの目で見たので知っています。あれは狸が一匹でするのではなく、二匹でやります。寺の者が『滑稽この上ないものですから、声を立てないよう息を忍んでご覧なさい』と言うので、月の明るい夜に戸の隙間からそっと窺っていました。
 やがて庭に狸が二匹おどり出て、あちらにこちらにと戯れ遊びます。これは雌雄の狸で、交合しようとして付いたり離れたり戯れているわけです。二匹は飛びちがうとき腹と腹を打ち合わせます。それがポンと鼓のように聞こえまして、何度も何度も打ち合わせるのを離れたところで聞けば、まさに鼓打ちというべき音の具合なのです。ですから、皆さんがおっしゃるようなことではありません」
あやしい古典文学 No.354