山崎美成『世事百談』巻之二「物化」より

物化

 中国の『譚子化書』に、「楓の老木が化して羽人となり、朽ちた麦が化して胡蝶となるのは、無情から有情への変化である。賢女が化して貞石となり、山ミミズが化して百合となるのは、有情から無情への変化である」とある。
 そもそも物の生ずるのに、胎生・卵生・湿生・化生の四つがある。
 そこから思えば、鳥獣昆虫が変化することは、とりたてて珍しいこととは言えない。モグラがウズラに化し、雀がハマグリとなることは、季節の風物として記されているし、ボウフラが蚊となり、毛虫が蝶と化すことなどは、人がいつも目にしているので、まったく奇怪なことだと感じない。

 そしてまた、いまだ見聞したことのない物化といえども、道理を超えた不可思議ではない。
 蛸に「柳蛸」という種類がある。これは蛇が化したものだと言って食べない人がいる。『独醒雑志』には、とぐろを巻いた蛇がスッポンと化したことを記している。『山居四要』には、「腹に蛇腹模様のあるスッポンは食べてはならない」とある。
 地虫が蝉に化すのも、よくあることである。橘南谿(たちばななんけい)の『東遊記』には、竹の根が蝉に化したことが書かれている。また、海草のアラメを刻んで泥土に混ぜておけば蛭と化し、ミソハギを蒸して湿地におけばナメクジとなり、蕎麦殻からドジョウを作り、鼠の糞でゲジゲジをこしらえるなど、枚挙にいとまがない。
 『西域見聞録』に、「夏草冬虫(かそうとうちゅう)といって、夏は葉が二またに出てニラに似た草であるが、その根は朽木のようであり、冬になって葉が枯れると、根がうごめいて虫と化す」とある。この夏草冬虫のことは、いろいろな書物に記されている。
 三河では、ケラが蓬(よもぎ)に化すことがあるという。土地の者がときどき見かけるのだそうだ。ケラが地面にぴったりと取りついて動かず、しばらくするとそれが根となって蓬が生えている。その図が『草木性譜』に載っている。

 この文章を書いている途中、やって来た友人に物化の話を持ち出したところ、彼はこんなことを言った。
「以前に私が草津に遊んでの帰り、松井田と安中の間の原市という宿を通りかかったときのことだ。人が大勢集まって騒いでいるので、何だろうと思って立ち寄ってみると、道ばたの柿の木に蚕が一匹とまっている。ところが、その蚕の頭がマムシになっていて、体はまだ蚕なんだ。これは珍しいと、人を押し分けて近づいて観察していると、口がかっと大きく裂け、見る見る体が延びてのたくり始めた。ほんとに気味の悪いものだった。
 そばにいた老婆の話では、蚕を柿の木に移しておくと、三匹のうち一匹は必ずマムシになるそうだ。マムシになる蚕の見分け方は老婆にも分からないとのことだったが、とにかく、四五日たてば全身ことごとくマムシになるのを、若いころから何度も見たと言っていた」
あやしい古典文学 No.356