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根岸鎮衛『耳袋』巻の九「蛇物を追うて身を損ずる事但し強勇の者諸邪害をなさざる事」より |
農夫の強気 |
同僚の水野若狭守が話してくれたことである。 水野の知行地に、むやみに気の強い農夫がいた。 あるとき道端で、蛇が蛙を呑もうとしているのを見つけて、蛇を叩いて引き離し、蛙を傍らの水草の中に逃がしてやった。 蛇は激しく怒って、農夫に向かってきた。木切れで追い払おうとしたが退く気配がない。いよいよ頭をもたげて執拗に追ってくるので、捕らえて口を引き裂いて殺してしまった。 死骸を見ると、砂利石の上を追ってきたために、腹の皮がひどく裂けていた。 「ものすごい執念だ」 と、傍にいた人々は口々に怖れた。 農夫は、 「こんなちっぽけな蛇に、執念なぞあるもんかい」 と言い放って、その肉を煮て食った。 すると、蛇の妄執てきめんに祟って、胸の脇がひどく痛みだし、腫れ上がったが、 「これくらい、なんでもねえ」 と、おびただしく灸をすえ膏薬を塗って、たちまち全快した。 |
あやしい古典文学 No.359 |
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