菊岡沾凉『諸国里人談』巻之二「姥石」より

姥石

 越中立山の国見坂、その上の姥が懐に、姥石という石がある。

 昔、若狭の小浜に止宇呂尼という老女がいて、立山は女人結界の霊山だというのに、あくまで参ろうと心を決め、年若い美女ひとりと童女ひとりを伴って登っていった。
 湯川の上まで行ったところで突如、若い女は杉の木に変じてしまった。これを美女杉という。
 童女はおびえて一歩も進めなくなった。その様子を見て、尼は小便をしながら大声で罵った。その尿の跡は、はかり知れない深さの穴となった。
 尼はがんばって国見坂の上まで至ったが、そこでにわかに角が生えて石と化した。姥石というのはこれである。

 二本の角が、秘蔵の宝物として今に残っているという。
あやしい古典文学 No.370