『今物語』「はこの不始末」より

もれもれ説法

 ある説経師の僧が、説法を頼まれて出かけていった。
 普段以上に尊く説法しようと張り切っていたのに、急に大便がしたくなった。便意がどんどん切迫してくるので、もう何もかも大急ぎで済ませ、お布施も受け取らないで退出した。
 家に帰り、履物を脱ぎ散らして便所に駆け込んでみると、出るのは屁ばかりで、大便は出なかった。
 僧は、『こうとわかっていたら高座で我慢して、ちゃんと説経するんだったのになあ』と激しく後悔した。

 翌日、また人に頼まれて説法に出かけた。
 すると、またもや大便がしたくなった。『いや、これは屁なんだから』と思って我慢し続け、ちょっと姿勢を正すようにした瞬間、まぎれもない大便をどっと洩らしてしまった。
 僧はどうしようもなくなって、
「いやあ、どうも。昨日はウンコだと思ったら屁でしたが、今日は屁だと思ったらウンコでしたよ。どうもどうも」
と言いながら、その場を逃げ出した。
 走り去る僧の袴の裾から大便が垂れ出て、説法の堂内はたいへん汚らしくなった。
 聴衆は、鼻を押さえて呆れるばかりであった。
あやしい古典文学 No.378