『大和怪異記』巻四「女の尸、蝶となる事」より

屍の蝶

 最近のことだという。

 会津の某家の下女が朝食の飯を焚いていて、ふと笑い出した。しだいに高く声の限りに笑い叫んだ末に失神し、そのまま息絶えた。
 遺体は火葬に付されたが、火がようやく回ったと見えたとき、いきなり鉄砲のごとく鳴った。瞬時に火が消え、と同時に、小さい蝶が幾千万となく飛び出して、四方に散っていった。
 近寄って見ると、あとには骨ひとつも残っていなかった。
 さては死骸が蝶になったのか。皆は奇異の出来事に茫然とした。

 その蝶の乾し干からびたのを二つ、信州高遠の月岡宗二という人の元に、縁者が送ってきたそうである。
あやしい古典文学 No.380