朝日重章『鸚鵡籠中記』元禄十六年二月より

末路

 先ごろ妾に迷ったあげく藩を追放された鈴木水之介が、乞食になって当地に戻ってきた。
 坂下万右衛門宅では、煙草の粉を乞うた。万右衛門は正視できず、後ろ向きのまま粉を手づかみで渡した。
 小間物屋の三右衛門のところでも湯を乞うた。三右衛門も見るに堪えず、後ろを向いて渡した。
 妾のしげの親が美濃の上有知(こうづち)に住んでいて、金がある間、水之介はそこに居たが、金を吸い取られて追い出され、このような境遇になったのである。

 私は十日ばかり後に、撞木町と武平町で見かけた。破れ筵をまとい、長髪坊主の頭で痩せて骨皮になり、真っ黒に汚れている。けれども顔つきは昔の水之介であった。
 四十日ばかりして、藤塚町の辺りで死んだという。
あやしい古典文学 No.395