『元禄世間咄風聞集』より

鬼を思え

 ある人が医者に、夜ごと淫夢を見て夢精するため、ことのほか疲れるのだが、どうしたらよいかと相談した。
 医者は、
「女のことや若衆のことばかり考えながら寝るから、そんな夢を見るのです。これからは何か勇ましいことを考えたり、鬼のことなどを思って寝るようにしなさい」
と助言した。

 その後、医者がまたその人を診察したところ、以前よりいっそう疲れ果てている。どうしたのかと尋ねると、
「おっしゃるとおり鬼のことを思って寝るようにしたところ、夜どおし夢で鬼に尻を犯られて、ものすごく疲れます。こんなことなら、前のように夢精していたほうがましですよ」
と応えた。
あやしい古典文学 No.400