津村淙庵『譚海』巻之二より

利根川の半魚人

 下総の国の利根川には、水中に居住する人がいた。布施から大宝という村にかけての水際で、ときどき見かけられた。
 また、その人は、魚などをとって食いながら、五六十日ばかり江戸の川に行って住むこともあった。あまり飢えたときには、川船に近づいて食物を乞い、残飯など貰うこともあったらしい。
 実際に見たという船頭によれば、確かに化物や怪物ではなく人間だが、陸で生活しているようには見えなかったという。

 安永の初めのころの話である。その後どこへ行ったのか、今は居所が知れないそうだ。
あやしい古典文学 No.402