神谷養勇軒『新著聞集』第十「真名古村蛇孫髪粘る」より

蛇身の女

 紀伊の国の日高郡真名古村は、かつて真名古の庄司が住んだところで、庄司の娘が蛇と化して男を追ったと言い伝えられている。
 この村は蛇の子孫だというので、隣郷・隣村が婚姻を結ぼうとしない。だから、結婚はすべて村の者どうしで行われる。その結婚によって村に一人、蛇身の女が必ず生まれてくる。大昔から今に至るまで、ずっとそうなのだという。

 女の容貌は千人に優れて美しく、髪は身の丈に余って地を引く豊かさである。
 梅雨の季節になると、その髪が粘って鳥もちなどを塗ったようになり、もつれ合って櫛の歯もたたない。梅雨が明けて近くの川で洗うと、たちまち爽やかになって、はらはらと解ける。
 この女と連れ合う男は、同村でもいないそうだ。
あやしい古典文学 No.408