西田直養『筱舎漫筆』巻之八「烈女」より

首を提げた女

 大阪の巴女という芸者が罪を犯して死刑になり、その連れあいの男も連座して処刑されることになった。
 男には姪にあたる若い女がいて、『叔父の首をもらい受けて懇ろに弔いたい』と役所に願い出て許された。
 やがて刑が執り行われ、首も胴体も芦島という所に捨てられた。
 女は、昼間は人目がはばかられるからと、夕暮れが過ぎるころに首がある場所に行った。首を拾って風呂敷に包むと、自分の住む堺の方へ帰っていったが、その途中の道で、若い男と行き会った。
「日も暮れたし、先の道も遠かろう。女が一人で夜道を行くより、今夜は俺の家に泊まらないか」
と、もちろん下心あってのことだが、熱心にすすめるので、女も拒みきれなくて、道のほとりにある男の家に入った。

 男には妻がなく、わびしい独り暮らしのところに、若い綺麗な女が泊まることになったから、嬉しくてのぼせ上がってしまった。
 しばらくして、女は便所に行った。その暇に男は、例の風呂敷包みが入口にあったのを、邪魔だから隅に片づけようと思った。
 包みを持ち上げると随分重い。何だろうといぶかしんで解いてみたら、生首だった。男は我を忘れて悲鳴を上げた。
 女が戻ってきたが、人が来ては厄介だと、急いで首を包んで走り去った。
 近隣の者が駆けつけてみれば、男は白目を剥いて、顔色は青葉のように真っ青だ。物言いもままならず、半ば意識がない。わけを問うと、やっとのことで、しかじかのことがあったと話した。
 皆で介抱したけれども、日が経っても正気に戻らなかった。最近は、山崎の親類のもとに、療養のため滞在しているという。

 かの若い女は、心が正しい上に精神も強く、きわめて褒め称えるべき者だ。
 それに対して男は、女を欺き、ただ犯しに犯そうという助平心だけだ。そのあげく、生首を見て気が変になったとは、まったく情けなくて話にならない。
あやしい古典文学 No.412