松浦静山『甲子夜話』巻之四十より

難船の鼠

 先年、私の藩中の侍が海で嵐にあい、船が転覆したが、からくも命を助かって小島に泳ぎ着き、やがて助けの船で帰還したという出来事があった。
 その際、彼が乗っていた船の船頭も同じく海に投げ出され、潮に浮かんだり沈んだりしながら泳いでいた。船頭の体には、船に棲んでいた鼠が数十匹も取りついていたという。

 結局、鼠どもは船頭とともに命が助かった。ちっぽけな獣でも、それなりの考えがあるものだ。
あやしい古典文学 No.420