津村淙庵『譚海』巻之九より

蛇の血を採る法

 三河の黒書院という山中には、烏蛇がたくさん棲んでおり、その血を採って薬を作ることが行われている。
 烏蛇の血を採るのに用いられているのは、次のような方法だ。

 大きな桶の周囲に小さな穴をたくさん開けて、その桶に人がひとり入る。
 桶に厳重に蓋をして、細引きの縄でくくり、蛇の棲む谷に吊り下ろす。
 桶が谷底にいたると、中の人が笛を数度吹く。
 笛の音に誘われて烏蛇が寄ってきて、桶の周囲に何百匹もびっしりと取りつく。
 中の人はそのとき、桶の穴から針で突いて蛇の血を採取し、用意の器に入れる。

 あとは、蛇がいなくなるのを待って、桶を引き上げるのだそうだ。
あやしい古典文学 No.426