『十訓抄』第九より

憤死

 藤原斉信(ふじわらのただのぶ)民部卿は、参議であった時、才能が優っていたために、兄の誠信(さねのぶ)を飛び越して中納言に昇進した。

 誠信は、自分の至らなさを棚に上げて弟の昇進を恨み、『無念、無念』と思い続けて七日目に、恨み死にしてしまった。
 拳を握りしめて絶命したが、怨恨の深さゆえに、指の爪がみな掌を貫いて、手の甲まで突き通していたということである。
あやしい古典文学 No.434