柳原紀光『閑窓自語』上「和泉海獣語」より

海坊主

 和泉の国に住む人の話では、同国貝塚のあたりの海辺には、ときどき海坊主とかいうものが磯近くに寄ってくることがあり、周辺の家は子供を外に出さないように気をつけるそうだ。
 もしあやまって外に出ると海坊主に取られると、人々は恐れている。
 三日ほどすると、海坊主はまた沖のほうに去る。
 その形は人に似て大きく、総身が黒漆を塗ったように真っ黒だ。語った人は、半身を海上に現して立ち去るのを後ろから見たので、顔がどうなのかは知らないといった。

 後に長門の人に聞いたところでは、海坊主は青黒く、首から上の前面は赤い。笛のような声を発するものだという。嵐を知らせに出てくるのだそうだが、これはまた別種だと思われる。
あやしい古典文学 No.438