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『斉諧俗談』巻之二「蟹満寺」より |
蟹満寺 |
山城の国の相良郡綺田村の蟹満寺(かいまんじ)という寺には、こんな言い伝えがある。 その昔、綺田に一人の女がいた。女の家は、深く仏を信仰していた。 ある日、女が里へ出ると、里人が大勢集まって、池の蟹を数多く獲っていた。何のために蟹を獲るのかと聞くと、煮て食うためだというので、女は、 「わが家に味のよい干し魚がありますから、それと蟹を取りかえませんか」 と申し出た。里人は大いに喜んだ。 女は、蟹をことごとく大池に放して帰った。 翌日、女の父が野原で蛇が蛙を呑もうとしているのを見て、思わず口走った。 「おい、その蛙を見逃してやれ。そうすれば、わしの娘をお前に与えよう」 すると蛇は、すぐさま呑みかけの蛙を吐いてその場を去った。 その夜、どこの者とも知れぬ男が門を叩き、 「昼の約束のとおり、やってきた」 と言ったので、父親は驚いた。 「そのことは、まだ娘に話していない。三日たったらまた来てくれ」 なんとか蛇を追い返して、しかたがないので娘に事情を打ち明けた。 しかし娘はさして驚く気色なく、そのまま寝間にこもると、仏前に向かって読経した。 三日たった。かの蛇が来て、家の戸を尾で叩き破って娘の居る寝間に入った。 両親は号泣し、気がふれた者のように叫んで里人に告げた。 里人が集まって、皆で寝間に行ってみると、娘は何の変わりもなく静かに座っていた。 蛇は死んでいた。数万の蟹が娘の救援に現れて、蛇の全身を鋏で切り刻んだのだった。 人々は奇異の思いにうたれ、そこに一寺を建立して、蟹満寺と名づけた。 最近、その寺を修復した際、本尊の床の下から数万の蟹の殻と、蛇のうろこが出たという。 |
あやしい古典文学 No.440 |
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