和田烏江『異説まちまち』巻之二より

短い脇差

 八十年か九十年も前のことである。
 ごく短い脇差をさしている武士がいて、それを十二三歳ばかりの前髪だちの者が、
「耳かきをさしている」
と、いつも笑いものにしていた。
 若輩者ゆえ限度ということを知らず、会うたびに、耳かき、耳かき、耳かき侍……と嘲ったので、とうとう武士は堪忍できなくなった。

 あるとき武士は、その若衆を後ろから捕らえて膝の上に抱きかかえ、
「いつも言われる耳かきだ。おまえの腹に通るかどうか、見るがよかろう」
と、脇差をぶすりと突き立てた。
 若衆もさる者で、
「なにぶん耳かきゆえ、思うようには通りませんぞ」
と応えて、自分の長い脇差を抜くと、わが腹を通して背後の武士の腹まで貫き通し、二人とも死んだ。
あやしい古典文学 No.442