岡村良通『寓意草』下巻より

異食の人々

 人それぞれに好んで食べるものがある。

 江戸に犬を好んで食う人がいた。一日でも食べない日があると体調が悪い。犬の肉がないときは、干した皮を煮て、和え物にして食った。
 大久保八右衛門という人の家の下男は、煙草のヤニを好んだ。あちこちの知人に頼んでヤニをもらい、集めたのを椀に盛ってすすった。この下男も、一日でもすすらないと気分が悪くなったという。

 松平大進は酒を飲むにあたって、まず煙草を吸い、草の半分焼けたのを酒に入れて飲んだ。
 小日向の金剛寺にいた直入という僧は、唐辛子が好きで、一年に一石八斗も食った。
 高田の感通寺の僧は、人と飲んだのは別にして、自分ひとりだけで酒九十六樽を飲んだ。

 幼いころに炭を食う子がいる。土を食う子、土器(かわらけ)を噛む子もいる。みな病気の一種なのだろう。
あやしい古典文学 No.450