岡村良通『寓意草』下巻より

怪食の人

 三郎という男がいて、きたないものを食うのを無上の喜びとしていた。
 鼠の死骸の腐ったのを、頭から尻尾まで毛ごと食い尽くした。
 蛙を生きたまま食おうとして、まず足に噛みつくと、唇にもう一方の後足を踏ん張り、キキッと鳴いた。それをぶつぶつと噛み切って、全部食ってしまった。
 屁ひり虫という、尻から悪臭を放つ小虫も食った。口の中で臭液が出て、焼けつくように熱かった。驚いて吐き出したが、舌が黒くなって暫く病みついた。

 あるとき、妻の伯母が亡くなって火葬した骨を、みな食った。
 妻はしくしく啜り泣いて、
「ひどすぎる。あんたはまるで鬼だ。伯母さんの骨を食う人がどこにいますか。もうこんな家には居られません」
と言って、出て行こうとした。
 三郎は妻の袖にすがって、
「もう伯母さんは食わない。だから行かないでくれ」
と引き止めた。
あやしい古典文学 No.453