『巷街贅説』巻之七「酒狂人」より

酒狂の名主

 本所松倉町名主、十兵衛に申し渡す。

 そのほう十兵衛は、先月二十八日夜、支配内の清吉宅へ、かねと申す女を連れて行き、ともに酒を飲み、さらに知人の久次郎を呼び寄せようと使いを出した。
 しかし久次郎が来ないため、十兵衛みずから迎えに行ったところ、九次郎は次郎八と酒を飲んでいた。「どうしても来ないなら町内から追い出す」と脅して、二人を伴って清吉宅に戻り、また酒盛りを続けた。
 酔狂に乗じ、久次郎と次郎八に陰茎を出して踊るよう命じたが、両人が辞退したため、火箸でもって次郎八の肩を打擲し、なおも久次郎に「陰茎を比べよう」と迫った。
 久次郎があくまで断るのも聞き入れず、無理に押さえつけて陰茎を露出させ、「毛を焦がしたら面白かろう」と蝋燭の火を突きつけたので、陰茎周辺が焼け爛れ、一時気絶するという始末にあいなったのは、不法の至りである。
 名主の身分にてとりわけ不届きにつき、江戸所払いを申し付ける。

 四月十一日
 月番北懸り与力 服部孫九郎
あやしい古典文学 No.458